
茶道入門
05.御抹茶
❙はじめに ~ 御抹茶 ~
「茶道入門」では茶道に初めて触れる皆様が茶道の基本を学び、心を込めたおもてなしの精神を体験できるよう、茶道の基礎を全10項目にわたって、わかりやすく解説してご紹介しています。
本ページでは、茶道において最も重要な「御抹茶」について探求します。
抹茶は、茶道において単なる飲み物ではなく、茶の湯の精神を象徴する存在です。
その鮮やかな緑の色合い、繊細な香り、そして点てる所作の美しさは、日本の文化と美意識が凝縮されたものといえます。
茶室の静寂の中で点てられる一服の抹茶は、日常から離れた特別なひとときを演出し、亭主と客との心の交流を深める役割を果たします。
また、抹茶には「濃茶」と「薄茶」の二種類があり、それぞれ異なる点前や作法が存在します。
本ページでは、それらの違いをはじめ、抹茶の歴史や特徴、茶道で用いられる御好抹茶について紐解きご紹介していきます。
それでは、「御抹茶」について詳しく見ていきましょう。
❙御抹茶とは? ~ 御抹茶 ~
抹茶とは、茶道で用いられる粉末状のお茶のことで、抹茶用の茶葉は、摘み取る前に特別な栽培方法が施されます。
茶葉を育てる際には、『覆下茶園』と呼ばれる栽培法を用い、茶摘みの二週間ほど前から、霜除けを兼ねた藁や専用の黒いシートなどで茶畑を覆い、直射日光が当たらないように管理します。
日光を遮ることで、茶葉に含まれる『葉緑素』が増え、鮮やかな深い緑色となり、カテキンの生成が抑えられるため、渋みが少なく、まろやかな甘みと旨みを持つお茶へと育ちます。
摘み取った茶葉は、均一に蒸気で蒸した後、乾燥させて選別され、この段階で『仕上茶』となり、さらに『石臼』で丁寧に挽き、微細な粉末状にすることで、抹茶が完成します。
こうして手間をかけて作られた抹茶は、茶道の席において大切に扱われ、一服の茶として心を込めて点てられます。
❙御抹茶とは? ~ 濃茶と薄茶 ~
抹茶には「濃茶」と「薄茶」の二種類があり、一般的に「茶道」や「抹茶」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは「薄茶」を指すことがほとんどです。
しかし、製茶方法において濃茶と薄茶に明確な違いはなく、収穫された茶葉の中から、苦みや渋みが少なく、特に品質の高いものが「濃茶」として選別され、それ以外のものが「薄茶」として用いられます。
そのため、市販されている濃茶用の抹茶も、薄茶として点てることが可能です。
また、『仕上茶』として整えられた茶葉は、保存のために「茶壷」に詰められます。
その際、濃茶用の茶葉は紙袋に包んで詰められますが、薄茶用の茶葉は茶壷内の隙間を埋める形で詰められます。
❙濃茶❙
濃茶の点前では、客人の人数分の抹茶を一つの茶碗に点て、練り上げた濃厚な抹茶を全員で回し飲みします。濃茶は旨みが強く、茶道の正式な席では欠かせないものとされています。
❙薄茶❙
薄茶は、一人分ずつ点てて客人に供する抹茶で、比較的軽やかな味わいが特徴です。一般的に茶会や日常的に親しまれる抹茶は、この薄茶を指します。
❙御抹茶とは? ~ 昔と白 ~
茶銘の末尾についている「昔」、「白」という表現は、現代においては濃茶と薄茶の区別として用いられています。しかし、本来は「昔」のみが用いられており、後になって「昔」に対する表現として「白」が加えられたとされています。
❙昔❙
「昔」という字の由来については諸説ありますが、一説には、最上級の茶葉の初摘みが行われる旧暦3月20日(廿日)の「廿(にじゅう)」と「日」を組み合わせたものといわれています。
❙白❙
一方、「白」という表現が登場したのは、江戸時代、特に三代将軍・徳川家光の時代であり、大名茶人たちが宇治の茶師に対して「茶を白く」と求めたことが始まりとされています。ただし、当時の「白く」という表現が具体的に何を指していたのかは明確ではありません。
茶人の嗜好も時代とともに移り変わり、古田織部は青茶を好み、小堀遠州は白い茶を好んだという記録が残されています。
宇治では「白」と「青」の違いは茶葉の蒸し加減によるとされており、この変化は茶の嗜好の移り変わりを示すものと考えられています。
また、業界の一説によれば、製茶過程において初摘みの新芽には特に白い産毛が多く見られ、その貴重な新芽を用いた茶は、粉にした際に白い産毛がふわふわと混じることから、「白」と称されるようになったのではないかともいわれています。
さらに、銀座平野園(創業明治十六年・東京銀座)には、『御園の白』という銘の濃茶が明治時代から今日に至るまで存在しています。
当時の店主である草野話一が、明治天皇に献上する抹茶の銘を考えていた際、濃茶に用いる上質な茶葉を臼で挽くと、挽かれた茶粉の周囲に特有の白い輪が広がることを発見し、そこから『御園の白』と名付けたとされています。
また、明治天皇が病を患った際には、草野話一が銀座の地で自ら臼を挽き、特別に製茶したという逸話も伝えられています。
❙御抹茶とは? ~ 点前 ~
はじめは抹茶のみを口にすると苦味を感じるかもしれませんが、茶席ではお茶をいただく前にお菓子を食することで、お菓子の甘みとお茶の苦味が調和し、より一層美味しく味わうことができます。
また、正式な茶事においては、「 炭点前 → 懐石 → 主菓子 → 濃茶 → 干菓子 → 薄茶」 という順序で進行し、濃茶と薄茶の両方をいただくことが一般的です。
茶道において、濃茶(点前)は格式の高いものとされ、使用される茶碗も樂焼の樂茶碗のように、装飾のない格の高いものが用いられます。
また、濃茶点前では、客人の人数分の抹茶を一つの茶碗に練り、皆で回し飲みをする形式がとられます。
これは、亭主が一つの茶碗に心を込めて点てた一服を、客人同士が分かち合いながらいただくことで、茶の湯の精神を共有するという意味を持っています。
❙御抹茶とは? ~ 御好抹茶のご紹介 ~
茶道において「御好抹茶」とは、茶道の各流派の家元や著名な茶人が特別に選定し、好んで使用した抹茶のことを指します。これは、家元や茶人の美意識やこだわりが反映された抹茶であり、長年にわたり愛用されてきた格式ある抹茶として位置づけられています。
茶道の流派ごとに「御好抹茶」は異なり、それぞれの茶風や点前にふさわしい味わいや香りが選ばれています。御好抹茶は、一般的な抹茶よりも厳選された茶葉を使用し、製茶の工程にも特別なこだわりが込められています。そのため、茶席において格式の高い席や正式な茶事では、家元の「御好抹茶」を用いることが多くなっています。
また、御好抹茶には、濃茶用と薄茶用があり、それぞれに適した茶葉の風味や挽き方が考慮されています。濃茶には、特に上質な茶葉が使われ、深みのある旨味とまろやかな甘みが特徴です。一方、薄茶には、爽やかな風味と適度な渋みを感じられるものが選ばれています。
御好抹茶は、単なる飲料としてではなく、茶道の歴史や茶道の精神を受け継ぐ存在でもあり、茶人が点前をする際、その抹茶が持つ背景や家元の想いを感じながら点てることで、茶席の趣がさらに深まります。
以下では、各流派の代表的な御好抹茶についてご紹介します。
■ 表千家 ■
❙即中斎宗匠御好
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深瀬の昔 (山政小山園 詰)
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栂乃尾 (山政小山園 詰)
❙而妙斎宗匠御好
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戸の内昔 (上林春松本店 詰)
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小松の白 (上林春松本店 詰)
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吉の森 (上林春松本店 詰)
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妙風の昔 (丸久小山園 詰)
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三友の白 (丸久小山園 詰)
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彩雲 (丸久小山園 詰)
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吉祥 (丸久小山園 詰)
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葉上の昔 (山政小山園 詰)
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栂の白 (山政小山園 詰)
❙猶有斎御家元御好
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栢寿の昔 (祇園辻利 詰)
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大雄の白 (祇園辻利 詰)
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橋立の昔 (上林春松本店 詰)
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三日月の白 (上林春松本店 詰)
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彩鳳の昔 (丸久小山園 詰)
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友久の白 (丸久小山園 詰)
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水明の昔(山政小山園 詰)
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音羽の白(山政小山園 詰)
■ 裏千家 ■
❙鵬雲斎大宗匠御好
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豊栄の昔 (祇園辻利 詰)
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萬風乃の昔 (祇園辻利 詰)
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寿松ノ白 (祇園辻利 詰)
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華の白 (上林春松本店 詰)
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翔雲 (上林春松本店 詰)
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祥宝 (上林春松本店 詰)
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松雲の昔 (丸久小山園 詰)
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慶知の昔 (丸久小山園 詰)
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瑞泉の白 (丸久小山園 詰)
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珠の白 (丸久小山園 詰)
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喜雲 (丸久小山園 詰)
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松柏 (丸久小山園 詰)
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葉室の昔 (山政小山園 詰)
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神尾の昔 (山政小山園 詰)
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苔の白 (山政小山園 詰)
❙坐忘斎御家元御好
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壷中の昔 (祇園辻利 詰)
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長久の白 (祇園辻利 詰)
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嘉辰の昔 (上林春松本店 詰)
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緑毛の昔 (上林春松本店 詰)
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五雲の白 (上林春松本店 詰)
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双鶴の白 (上林春松本店 詰)
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松花の昔 (丸久小山園 詰)
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清浄の白 (丸久小山園 詰)
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千里の昔 (山政小山園 詰)
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悠和の昔 (山政小山園 詰)
■ 武者小路千家 ■
❙不徹斎御家元御好
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嶺雲の昔 (祇園辻利 詰)
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翠の白 (祇園辻利 詰)
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翠松の昔 (丸久小山園 詰)
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祥風 (丸久小山園 詰)
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宇治上の昔 (山政小山園 詰)
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奏の白 (山政小山園 詰)