
茶道入門
06.茶席の御菓子
❙はじめに ~ 茶席の御菓子 ~
「茶道入門」では茶道に初めて触れる皆様が茶道の基本を学び、心を込めたおもてなしの精神を体験できるよう、茶道の基礎を全10項目にわたって、わかりやすく解説してご紹介しています。
茶道において、お菓子は単なる甘味ではなく、茶の湯のもてなしの一環として大切な役割を果たします。茶席で供される御菓子は、茶の味わいを引き立て、季節感を表現し、亭主の心遣いを伝えるものです。
茶道では、抹茶の苦味や渋みとお菓子の甘みが調和することで、より深い味わいを楽しむことができます。特に濃茶には主菓子、薄茶には干菓子が供されるのが一般的で、それぞれの茶の風味を引き立てるように工夫されています。
また、茶席の御菓子は、見た目の美しさや意匠にもこだわりがあり、四季折々の自然の移ろいを表現するために、季節ごとに異なる色合いや形、素材が用いられます。
春には桜や若葉を模したもの、夏には清涼感のある錦玉や水羊羹、秋には紅葉や栗を模したもの、冬には雪景色を思わせる菓子が登場し、茶席に華を添えます。
御菓子の種類や作法にも長い歴史と伝統があり、茶道の流派や茶会の趣向によって異なる点も多くあります。
本ページでは、茶席で供されるお菓子の種類や意味、季節ごとの特徴などについて紐解きご紹介いたします。
それでは、「茶席の御菓子」について詳しく見ていきましょう。
❙茶席の御菓子 ~ 茶席の御菓子 ~
茶道において御菓子は、ただ抹茶の味わいを補完するための甘味としてだけでなく、茶席全体の美意識や季節感を表現する重要な役割を果たします。
美味しさは当然のことながら季節ごとに変わる色合いや形状、そして装飾により、茶席における情緒や趣向を演出します。
春には花のような繊細な見た目、夏には涼しさを感じさせる淡い色調、秋には紅葉や実りを彷彿とさせるデザイン、冬には雪景色を思わせる白い御菓子が用いられることが多く、その時期の風情を感じさせます。
また、茶室内には「花」や「銘」が施された茶道具が配置されており、御菓子のデザインがこれらと重複しないよう、また食べる際に「バリバリ」とした音が出ないようにするなど、作法や趣向に細やかな配慮が求められます。こうした点は、茶会の静寂と格式を保つためにも非常に重要です。
御菓子は、茶道における「もてなしの心」を象徴する一部であり、亭主が客人に対して一生懸命に心を込めて用意するものです。味わいと同時に、その美しさや季節感、さらには使用される食器や配置にも細かな注意が払われ、全体として調和の取れた空間を創り出します。
このように、茶道における御菓子は、単なる甘味以上の意味を持ち、茶の湯の深い精神性や日本独自の美意識を体現する重要な要素として、今日まで受け継がれているのです。
❙茶席の御菓子 ~ 主菓子と干菓子 ~
茶道で供される御菓子は、大きく「主菓子」と「干菓子」の二種類に分類されます。
正式な茶事や茶会では、主菓子は濃茶とともに、干菓子は薄茶とともに提供されるのが基本ですが今日の茶会では気軽に参加できるものも多く、大寄せの茶会などでは薄茶のみが提供されることが一般的で、その場合、主菓子のみ、または主菓子と干菓子の二種類が振る舞われることもあります。
❙主菓子❙
主菓子は、生菓子や蒸菓子など、水分を多く含むしっとりとした和菓子を指し、餡を使ったものが中心となります。
正式な茶事では、縁高に盛り付けられ、客に供されます。
❙干菓子❙
干菓子は、その名の通り水分の少ない乾いた御菓子で、落雁や煎餅、金平糖などが代表的です。特に茶会では、季節の風物を写実的に表現した繊細な造形の干菓子が用いられ、茶席に季節感を添えます。茶会では、二種または三種の干菓子を取り合わせ、干菓子盆に盛りつけて供されるのが一般的です。
茶事においては、主菓子は初座(懐石後)に提供され、干菓子は後座(薄茶席)で供されます。それぞれの菓子が持つ風味や食感の違いを楽しみながら、茶道のもてなしの心と季節の趣を味わうことができます。
❙茶席の御菓子 ~ 御菓子の頂き方 ~
茶道では、お茶をいただく前に御菓子を食べ終えておくのが基本とされています。
御菓子が供される際には、作法に則って丁寧に取り扱い、美しくいただくことが大切です。
❙ 菓子器の取り扱い ❙
菓子器が運ばれてきたら、両手で持ち、畳の縁の外に自分と次の客人の間に置きます。その際、軽く手をついてお辞儀をしながら「お先に」と挨拶します。
次に、懐紙を取り出し、折り目(和)が手前にくるようにして、膝前の畳の縁内に置きます。そこに自分の分の御菓子を取ります。御菓子を取る際は、左手を菓子器に添え、お菓子の形を崩さないように注意しながら、外側のものから取ります。また、次の客人への心遣いとして残された御菓子の形が美しく見えるよう配慮することも大切です。
菓子箸を使用した場合は、懐紙の端で軽く拭って清めてから菓子器に戻します。
御菓子は、懐紙にのせたまま胸元あたりまで持ち上げ、左手にのせていただきます。
❙主菓子の頂き方❙
主菓子は黒文字楊枝を用いて食べやすい大きさに切って軽く刺していただきます。また、お饅頭の場合は、黒文字楊枝は使わず手で割っていただきます。
❙干菓子の頂き方❙
干菓子は手を使っていただきます。
煎餅など一口で食べられないものは、懐紙の上で食べやすい大きさに割ってからいただきます。干菓子が二種類以上用意されている場合は、盛り付けの形を崩さないようにしながら手前から取り、次の客へ回します。万が一食べきれない場合は、懐紙に包んで持ち帰ることも可能です。
茶席では、御菓子の味わいだけでなく、その美しい意匠や季節感も楽しむことが重要とされています。所作ひとつひとつに心を込めて、茶道のもてなしの精神を味わいましょう。
❙茶席の御菓子 ~ 歳時記 ~
茶道において御菓子は、単なる甘味としてではなく、季節の趣や茶席の雰囲気を彩る重要な要素として扱われます。茶席の御菓子には、それぞれの季節を反映した意匠や色彩が施され、和菓子職人の繊細な技と日本文化の美意識が表現されています。
下記では月ごとの茶席の御菓子を歳時記としてまとめ、季節ごとに用いられる代表的な御菓子をご紹介しますので参考としてご活用ください。
❙1月/睦月❙
主菓子
花びら餅・旭餅・重ね扇・此の花・松ヶ枝・松襲・松の雪
干菓子
干支煎餅・寿煎餅・七宝・ねじ梅・福梅・若松煎餅
❙2月/如月❙
主菓子
梅ヶ香・こぼれ梅・福は内・椿餅・雪間草
干菓子
絵馬煎餅・お多福・きつね面・ねじ梅・ねじ棒
❙3月/弥生❙
主菓子
青柳・草餅・早わらび・春の野・春の野きんとん・都の春・桃の里
干菓子
貝尽し・菜花の月・早蕨・蝶結び
❚4月/卯月❚
主菓子
桜花・京の山・胡蝶・桜餅・つつじ・花見団子・春の山・矢吹重
干菓子
桜花・蝶々・花筏・花兎・蕨
❚5月/皐月❚
主菓子
菖蒲饅頭・岩根のつつじ・柏餅・唐衣・花菖蒲・藤の花
干菓子
菖蒲・轡・竹流し・躑躅・結び松風
❚6月/水無月❚
主菓子
紫陽花・紫陽花きんとん・磯辺餅・卯の花・氷室・水牡丹
干菓子
芦煎餅・鮎・貝拾い・滝煎餅・撫子・水
❚7月/文月❚
主菓子
朝露きんとん・天の川・おりひめ・苔清水・玉清水・星の光
干菓子
鮎・糸巻・団扇煎餅・川瀬・撫子・弥さか煎餅
❚8月/葉月❚
主菓子
青瓢・月の雫・夏木立・波の花・葉月・水の面・水花火
干菓子
岩波・団扇・小菊・千鳥煎餅・ひさご・夕顔
❚9月/長月❚
主菓子
桂の月・桔梗餅・西湖の月・十五夜・月見団子・萩まんじゅう
干菓子
芋の葉・枝豆・桔梗・すすき煎餅・野菊・初雁煎餅
❚10月/神無月❚
主菓子
薄紅葉・秋明菊・竜田・万寿菊・みのりの秋・山づと
干菓子
銀杏煎餅・稲穂・稲穂煎餅・小菊・雀・鳴子・もみじ葉
❚11月/霜月❚
主菓子
織部饅頭・初しぐれ・初霜・晩秋・冬木立
干菓子
銀杏煎餅・枯松葉・しめじ・照葉・吹き寄せ・もみじ
❚12月/師走❚
主菓子
木枯し・試み餅・柴の雪・蕎麦薯蕷・雪餅・夜の雪
干菓子
うす氷・寒菊・笹の葉・雪華・雪輪